温室のブーゲンビレヤ95    F100号
第81回光風会展 1995年
温室のブーゲンビレヤ94    F100号
第80回光風会展 1994年
 野平氏は今年四月に満九十八歳を迎えた洋画壇の最長老作家である。一貫して平明で穏やかな風景作品には自然を愛し樹木の生命を歌い、人を慈しむ画家の精神が貫かれている。近作のシリーズにおいてもその健筆ぶりは衰えることはなく、揺るぎない構築力には敬服するのみである。大正八年に画家の道を志し、大阪府立北野中学卒業後に上京、川端画学校に入学した。そこで終生の師となる藤島武二と出会う。日本洋画の発展の基盤をつくり、改革精神あふれる時代に氏は青春期を過ごしたといえる。印象派は瞬間的な風景の美しさをとらえ、色彩の純化をもたらした。氏は大学を卒業後高校数諭として岡山に移転するが、日本の地中海ともいえる瀬戸内の温暖な気候風土のなかで豊かなモチーフと出合い感性が磨かれ自己の世界が確立されたといえるだろう。戦後期から五十年代の「協海の町並風景」六十年代から七十年代にかけての「オリーブ樹」シリーズ。
ブーゲンビレヤ93  第79回光風会展  1993年
八十年代から現在に到る「ブーゲンビレア」のシリーズへとつづく作品群には、二貫として清新な気風にあふれ、自然の光と風を感じる画面には色彩の輝きがある。セザンヌは南仏プロヴァンスの山を繰り返しモチーフとして選び、造形探求を試みた。同じように、掲出の「ブーゲンビレヤ」のシリーズをみると、造形への興味はつきることがなく、常に新鮮な素材として立ち現れてくるようだ。柔らかい陽光が差し込む温室の一角がいろんな角度でとらえられている。直線的な窓の格子や桟が交差する幾何的な構図を軸に絡むように咲き誇るブーゲンビレヤの優しい表情。直線と有機的な曲線が結ぶ造形の面白さがある。南国の野趣あふれるスケールのある生命力に注視する。氏の風景作品には穏やかな生命のリズムが刻まれている。われわれもまたその場に導かれて一体感となる心地よさがある。温和な聖域のようにも感じ取れるのである。(ばんのなおこ 1999年)


《《…もどる               《…前ページ     P3/14    次ページ…》